丹乃國蕎麦〜拓朗亭〜


■拓朗亭
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第二十七番書写山円教寺に毘沙門天を見た

 ロープーウェイが発車すると一瞬にして眼下に姫路の街並みが箱庭と化し遠くに播磨灘が見える。残念な事に角度の問題で白鷺城は見えはしないのだが向こうには悠久の季を経て武士の魂が語り継がれる天守閣がそびえているのだ。


  その壮大な夢の跡をロープーウェイは新緑の中を四分ほどで我々を山頂駅と運んでしまう。
 書写山円教寺は巨大な敷地を持つ寺である。山頂駅を降りると拝観料を払い境界線の無い境内に進むとすぐに鐘突き堂があり浄財を幾ばくか出すと一突きさせてもらえる。大きく立派な鐘がどのような音色で煩悩を払ってくれるのか一突きしてみた。それは腹の底と言うよりもむしろ地の底から響く重低音で至極簡単に言えば「良い音」なのだが、その余韻は歩き始めてもしばらくは止みそうになく、山全体か街その物が共鳴しているように感じるのであった。
 ゆるやかながら結構な登り坂を参道沿いに奉られた三十三寺の観音さまを拝観しながらに歩く、とどめは一枚岩のような階段が段数こそ少ないものの行く手を塞ぐ。登り積めると如意輪千眼千手観音を奉る魔尼殿、本堂である。静かながら大きなうねりの様なゆるやかでたおやかな極上の安らぎが産まれ出ずる本堂である。御朱印をもらい本堂を後にしたのだが、皆一様に帰る気配がない。何かを探し何処かに行こうとするのだが、広すぎて分からない。とりあえずは宝物殿に向かい隣の仏殿を眺めてみたがが、そこではないらしい。
 広い境内を歩き少し疲れて来たので、あきらめて帰ろうかとしたとき、「奥の院‥すぐそこ」と、ある。せっかくだからと足を延ばし行ってみると、書写山の開山者「性空上人」が奉ってある「開山堂」。その院の横に二ツの社がそれぞれの鳥居を持って並んで建っていた。明治以前の名残りであろうが、何の気配も感じぬままに奥の院に上がろうか迷い、はっきりしない「性空上人」仏像が何なんだろうと一歩足を外に踏み出しきびすを返し先程の社の杉皮で拭かれた屋根に(これは実は檜の皮であった)目が行ったとたん身動きが出来なくなった。 それが、どれくらいの時間なのか定かではないが、足がすくむ。とかではなく動けないのだ。多分眼はその一点をみつめていたのだろうが、恐ろしいまでの視線を感じる。異様な光景に驚かれたのか、売店におられた事務所の方がとんで来られたのは気配で分かったのだが、おそらくはその方もこちらが何かしらの動作を起こすまでは言葉も掛けられなかったのではないだろか、それは金縛りとか、いわゆる霊的なモノが成したのではなく、もっと強い神の領域からの伝播であると思う。ようやく振り返る事が出来、「あのお社は?」と尋ねてみた「あれは性空上人の守り神、毘沙門天を祀る『護法堂』ですが、神仏が分けられた後もこうして奉らさせていただき年に一度は大祭が行われます」と説明を受けた。何故動けなく成ったのかは考えても分からない。見守られている視線と決して穏やかではない強い視線を入り乱た状態で感じる。それが、いわゆる導きなのか何かを示唆するものなのか…ただ、近い内に毘沙門天だけを詣らなければならない気がする。「お詣りさせてもらうのは、やはり柏手でしょうか?」と問うと。「はい。そうなります」と応えられた。
「では、ひとまず、御本尊さまを…」と改めて性空上人仏像にお参りをし、「護法堂」に向かい
柏手が響いた瞬間5月の終りにも関わらず、真冬の早朝のピーンと張り詰めた冷気が神々を呼び執り行われる静寂なる集会がオーバーラップされた。神社では時々、或場所から空気の流れと温度が極端に違う事がある。例えば当地の出雲神社の裏山がそうだ。最近、江原先生がその著書で紹介をされたので沢山の方が出向いておられるかも知れないが、明らかに空気が変わる場所が存在する。例年仕入れに出掛ける徳島の山中に在る「三所神社」等はもっと凄い。鳥居から本殿までの平坦な境内でそれを感じるのだ。荒んだ本殿は閉じられワンカップ酒が一つと100円玉が一枚供えられているだけの限界集落のはずれにある神社ではあるが、「神力」と言えば良いのかどうかは別として、悪戯に「神」に携わるのでは無く、おののき、あがめ、尊ぶ者によって守られて来た「神」が、その地を守り、活かし続けて来た「神」が存在するのである。

書写山・奥の院「開山堂」は「寺」であって「寺」では無い。
「神」によって、活かされている一風変った場所である。
そして「そこ」に呼ばれていた。

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