VOL.007〜蕎麦酒房 かしわぎ〜 店主・柏木氏急逝によせて
いつかはそんな時が来る、どんな形であれその時が来る
〜人の命が絶える時が来て、人はなにを思う、
人の命が産まれる時には、人はただ笑うだけ〜
そんなに深い関わりが在ったわけではない、永い人生からみればどちらかと言えば瞬間的な関わりに近かったのではと思う。しかし、「急逝」の報せを受けた時から何故か虚しいのだ。こころの何処かでその虚しさがデカイ顔をしているのは何故なんだろう・・・
以前、心斎橋に店が在った頃には何度か訪ねた事が在るのだが島之内に移ってからは遂に行かず仕舞いに成ってしまった。その頃は普通に変った店だったと思う。今と成っては伝説的な話でしかないのだが、何故あれで店が成り立っていたのか不思議で成らない。
そもそもが「蕎麦屋」を開業する前には「マガジンハウス」の大阪支社のかなりのエライさんであったのだが辞して「蕎麦屋」を開業された。当然、それなりの歳であり伴侶である「おかん」は更に年上の様にお見受けした。
この二人、とにかく至ってノンビリしていた。ある時「天ざる蕎麦」を注文すると柏木氏は何時もの様にちょっとこっちを見やると眼鏡を右手で少し上げ、「時間かかるんですよネェ」と前置きをしてから天麩羅鍋をコンロに掛け火を着けた。のだが、コンロから出るガスの炎はコックを全開にしても燃えると言うには余りにもお粗末な火力で、確かに何時になったら温度が適温に成るのか、いささか不安にさせられてしまった事が在る。
この店のメインは事も在ろうに「おでん」でこれをつまみに酒をしこたま飲み、仕上げに「蕎麦」をチョイトたぐるのが正当な『しきたり』であった。何時ぞや全く飲まない愚僧の家族三人が「かしわぎ」に行き、事も在ろうに早い時間にこの「おでん」を平らげてしまった。オカンは本当なら「おでんばっかり食べちゃダメなのヨゥ〜」と怒り浸透のはずなのだが、「いいのよぅ、断ればいいんだからぁ」とは言っていたが後の客は間の持たない『酒』を飲まされていたに違い無い。それから行かなく成ってしまった。
で、この半奇怪なる「そば屋」は今となっては「居酒屋蕎麦屋」と呼ばれる分野の草分け的な存在で在ったわけで島之内に移られてからは全く訪れる機会がないままに閉店となってしまった。愚僧が柏木氏の急逝の知らせを受けたのは随分と後であった。悲しいと云うよりは虚しさだけがイメージされていたのは、後に残された「オカン」の存在が大きなウェイトを占めていたからであろう…「オカン」は演歌よりもジャズな人であったと思う、黙って聞いているとジャズっぽい鼻歌でリズムをとりながら「カマボコ」を切っているのだが決してノリ切れてはいない。どちらかといえば「ノリそこねて」いるのだが、そんな事は知ったコッチャない。その昔にはチャンと合っていたに違いない。だからそれが我々の許容範囲の線上で右往左往しているのだがご本人は至って真面目にやっておられた。そんな「オカン」を柏木氏はいつも右手の人差し指でチョイと眼鏡を上げながら「スイヤセンねぇ」と江戸っ子調にたしなめておられたのを覚えている。更に「オカン」は亀岡だかどこだかの蕎麦屋より「ケンカ」っぱやかったと思う。気に要らないと「もぅー、かえんなさいよぉ〜」とやらかして廻りの「柏木ファミリー」をヒヤヒヤさせていた。これを御本人の柏木氏は怒りもせずたしなめずもせず、例の調子で一言「すいゃせんネェ」と言っておられた。と、言うことは、きっと「オカン」が柏木氏の代弁をしていたのであろう。柏木氏も「もう、けぇ〜ってくれ」と思っていたに違い無い。こんな夫婦も悪くは無いような気がする。
柏木さ〜ん、早く生まれ変わってまた「蕎麦屋」しましょう。
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ショックです。今日はじめてこのブログを発見しました。「かしわぎ」の店主がご逝去されていたこと。心斎橋のお店も、島之内のお店も通いました。大阪一おいしいお蕎麦だと思っていました。いろいろもっとお話したかった。店主に関東ではここがおいしいと教えてもらったお蕎麦屋さんはまだ行っていません。「おかん」はどうされているのでしょうか。
投稿者: mari | 2008年02月26日 10:26
「蕎麦酒房」と言う新しいスタイルを「おかん」のテンポで、御大のスピードで提供する一風変わった蕎麦屋でしたね…
もう3年以上なると思います。
「おかん」は身寄りが無く、チョット錯乱状態も在ったのかもしれませんが、アルツが入っていたのも事実みたいで施設に入られたと聞きましたが、その後は誰も多くを語る事無く季節だけが変わっていっています。
また、故・御大の弟子とも言うべき「京のだいどこ姉小路」の今井氏も一昨年になるでしょうか、ご逝去されております。
ここに改めて、両氏の深い御冥福を心よりお祈り致します。
投稿者: 大家 | 2008年02月26日 15:40