新蕎麦熟考
毎年9月に入ると「新ソバはいつ頃からか?」と聞かれます。中には真夏に来店されてお食べに成られ「新ソバの頃を楽しみに来ます」等と声を掛けて下さるお客様もおられるのですが、内心『?』と思っております。「えっ?」と聞き返しますと「いやぁ、夏場でこれだけの味と香りが出ているのなら『新ソバ』の時期はどんなだろうと思って」と言われるのですが正直、余り変らない。と、言うよりもむしろ「夏季」の方が美味しいと思います。
ひと口に「新ソバ」と言っても産地により播種期が違うのですから収穫期も違います。当然、北海道の平野部「幌加内」等が収穫は一番早いのではないでしょうか。9月の上旬には「新そば」として出荷され製粉屋や一部のそば屋が買い付けます。ここから、国内玄ソバ栽培地最北端の音威子府(オトイネップ)や北海道の各地が徐々に収穫に入ります。
拓朗亭では北海道産と言えども10月に入ってから収穫される昔ながらの「秋新」の刈り入れをひたすら待ちます。これがきっちり乾燥されて拓朗亭に送られて来るのは早くとも10月の下旬です。そして信州・黒姫、茨城、栃木、福井、石川、徳島、宮崎。時として鳥取等も季節を追って続々と入荷してきます。これらの産地は皆、昔から伝わるその地方の栽培方法と収穫期を持ち、収入を早く得る為に播種期を早くし収穫期を本来の時期からずらすと言う事は一切しないのです。当然、自然の恵みで栽培される穀物ですから、あと少しでようやく「刈り入れ」と言う時期に台風が来たり、早霜に遭って壊滅。などは悲しいかな茶飯事です。それでも、それに執着するのは、ピタッと決まった時には本当に美味しい「蕎麦」を造る事ができる事実を過去に経験してきたからに他なら無いのです。
こうして収穫され拓朗亭に入荷された「玄ソバ」(黒いカラの付いたソバの実)はホコリや土を磨いて落とし、小石を抜き、7〜9段階の大きさごとに分けられます。これらのカラを剥き石臼で製粉するのです。
少しは、理解して頂けたと思われます。では、「新そばはいつ頃からか?」と言う問いかけに正確に応えようとしたら、何処の産地の「新ソバか?」がわからないと応えようが無い事も御理解下さい。刈り入れが始まる頃にようやくタネマキ等と言う3ヶ月近くのズレが生じる穀物なのですから…。


